12.8.14

アイルランドの妖精の輪。

アイルランドでサイクリングをしたときの休憩タイム。この紅茶がおいしかった。

日本にいた若い時分に、居酒屋さんなどで、数人でおつまみをつつき合う機会に、最後のほんのちょっとに誰も手をつけず、それを「関東一口残し」などと笑ったことがあります。なんとなく、自分がお皿を終わらせてしまうのは悪い、みたいに皆思っていたのでしょうか。いまでは、すっかり厚かましくなって「食べちゃっていい?」または「食べちゃって、食べちゃって」とお皿を片づける派になってしまいましたけれども。

最後の一口を遠慮する、というのとはまったく違うのですが、紅茶を飲むときに最後の一口を必ず残すのが、うちの夫です。おかげで、いつも彼のカップには、底から5ミリほどの位置に汚らしい茶渋が残ってしまい、迷惑なこと、この上ないのですが、どれだけ「最後まで飲め」と言っても、幼い頃から培われてきた習慣というのは、早々簡単になおるものでもなく、気がつくとカップの底にちょっとだけ紅茶が残っているのです。

どうやら、「紅茶の最後の一口は、妖精のために残す」というのは、アイルランド人の義母から夫に伝わった習慣のようです。そういえば、アイルランドは「妖精の住む国」。とても妖精が住んでいるとは思えないロンドンで、それがどのくらい有効なのか、かなり疑問ですが、母から子に伝わったこういった実用性のない習慣が、ひとつくらいあっても、まぁいいか、とも思うのです。

カップには、「天使の輪」ならぬ、茶色い「妖精の輪」がしっかり残って、消えないにしても。

確かに妖精が住んでいても不思議ではない風景ではあります。

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