30.4.12

私にとってのメイデー



イギリスはあと数時間で5月1日。労働者の日、メイデーです。

でも、私にとっては5月1日は、8年前に亡くなった父の誕生日でもあります。

こんなことを言って、弟に呆れられたのですが、私手帳を見ないと父の命日を思い出せません。11月の下旬ということはもちろん覚えているのです。

ガンだった父が、本人の希望と、また病院でもうできることがないから、という理由で自宅に戻ってきたとき、介護役のはずだった母もまた、ぎっくり腰で寝たきりでした。それで急遽、私も帰国することに。11月18日にロンドンを出て、19日にうちに戻ってきたことははっきりと覚えているのです。

それから3日間、弟夫婦と3人でみっちり父の介護をさせてもらったことも覚えていて、だから計算すると11月22日なのですが、手帳をみると果たして22日でした(あってた。ほっ)。

こうやって計算してみると確かに22日なのに、誕生日のように、日付としてははっきりと思い出せないんですよね。とても不思議なのですが。

3日間というと、とてもあっけなく聞こえるかもしれませんが、この3日間に父が私にくれたものは、計り知れないくらい大きい。私のその後の人生を変えたと言ってもいいくらい(または、そのおかげで変わらずに済んだというべきなのかもしれないけど)、それはほかにかえようがない貴重な時間でした。

☆☆☆

さて、上に載せた鉛筆画は、父の死後、母にプレゼントするために、鉛筆画家のYuka Zuverさんにお願いして描いていただいたものです。

私が4歳、父が36歳。母の妹にあたる叔母の結婚式で、ふたりで大阪に行ったときのモノクロの写真をもとにしています。そうです、いま、「えっ」と思われた方、正しいです。母の妹の結婚式なのに、私と父が出席して、生まれたばかりの弟を抱えた母は、東京で留守番だったのです。

今時の夫婦だったら、夫のほうが子どもを世話するなりなんなりして、奥さんを妹の結婚式に送ると思うのですが、昭和の夫婦のなんたることか(昭和の夫婦の、というよりは、父の問題のような気もしますが…うーむ)。

それでも、この絵のなかの父のうれしそうな顔を見ていると、母には悪いけれど、まぁいいか、と思えてくるのです。自分がこのときの父よりもずっと年をとって、この絵のなかの父がなんだかかわいく思えてきたというのも、あるのかもしれません。それと、(ばかなことを言うようですが)彼のやさしい目線に、いまさらながら、やっぱり父は私のことが好きだったんだなぁと、思ったり。対して、4歳のときの私は、なんとわかったような顔をした、かわいげのない子どもだったのでしょうか。

Yukaさんが描いてくださったこの絵、実は写真よりもずっと真実をとらえているような、そんな気がしてしまうのです。 そして父の人生は、きっと幸せだったに違いない、と、そんな説得力は、私を幸せにしてくれます。

Yukaさんの作品にご興味のある方は、どうぞ以下のサイトからどうぞ。アメリカにお住まいですが、海外発送もOKです。

Yukaさんのウェブサイト(http://www2.whidbey.com/zuver

14.4.12

取材中に思ったこと。



久しぶりに怒濤の取材月間です。

イギリスでは、アンティークの小さなお店がたくさん集まった、屋内マーケットのことを「アーケード」と呼んでいます。

昨日の取材先は、そんなとあるアーケードでした。

アーケード内で商品の撮影をするにあたって、どこのお店もとても狭く、またアンティークのランプがあっちこっちに灯っているため、光の加減が非常に難しく、また午後予定していた取材先からキャンセルが入ったこともあり、一軒一軒ちょっと時間をかけて撮影させていただきました。

カメラマンさんが撮影に集中している間、私自身はお店の方から、記事にするために必要な情報をうかがって、それでも時間があるときは、どんどん話が深くなっていって、最後にはその方の人生について、かなり細かくうかがうこともあります。

昨日まで知りもしなかった方に、「どうしてこの仕事を始めたのか」「出産後はどうやって復帰したのか」「娘さんは仕事をつがないのか」などなど、そんな話をうかがって、人生勉強させていただけることが、私にとっては、この仕事の最大の魅力のひとつだったりします。

さて、昨日もまさにそういう日。アーケード内の取材先一軒目で、「あなた前にも取材に来たことあるでしょ」と言われ、確かにこのアーケードを取材させていただいたことは過去に2回ほどありましたが、以前に仕事をしたアンティークガイド(右側のコラム参照)では、アンティークショップばかり100軒以上取材して記事を書いたので、このお店を取材したかどうか、正直言って自信がありません。

「もしかしたら…。アンティークガイドの時に…」と答えると、「そうでしょ、そうでしょ。いまでもその本持ってくる人が多いのよ。もう引退しちゃったけど、前回はうちの母親が対応したはずよ」とひとしきり、お母さんがどれだけ取材されたことをうれしがっていたか、本を見せ回っていたか、などを話されて、さらに彼女に電話して、「ガイドブック作った子がまた来たわよ!」なんて言っています。

うーん、本当に同じ本を指しているのだろうか……。私の作ったガイドはかなりマイナーですし、そんなに売れているようにも思えないし、なんか違ってたら悪いなぁと思って、話題が変わったときには正直なところほっとしてしまいました。

最後に名刺をお渡ししたら、アーケードのカードの裏に「Beth」というお名前とともに、電話番号、メールアドレスなどを書いて、「また来てね」と渡してくれました。

そのあと数軒取材して、くたくたになって家に帰ってきて、晩ご飯の準備をしているときに、ふと昼間の会話を思い出し、自分のつくったガイドブックを開いてみました。

果たしてそこには、「ベス&ビバリー」という名前のお店がしっかり入っていました。たった2分の1ページの小さな記事でしたが、いまもお店で扱っている商品の年代、種類は同じです。きっとお母さんがビバリーさんなのでしょう。

私自身が書いたその記事を見つけて、なんだかとても複雑な気持ちになりました。私にとっては、100軒取材したなかの1軒でしたけれども、お母さんにとっては、たぶんたった一度の日本人からの取材だったのかもしれません。そう思ったら、思い出せなかった自分がなんだか申し訳なくて、仕方がないことだとわかっていても、ちょっと切なくなりました。

忘れてしまうのは、本当にもう仕方がないことだとしても、ひとつひとつ愛をもって仕事しなければいけないなぁと、襟を正す思いでもありました。

この件でもうひとつ、過去にあった似たようなことを思い出したのですが、それについては、長くなるので、また改めて書きたいと思います。

☆☆☆☆☆

さて、今日から、毎年恒例の「North London Music Festival」が始まりました。1920年から続いているこのフェスティバル、今年は92回目を数えます。


私自身はここ数年、Council Memberをさせていただいているのですが、昨年から、弊社KRess Europeもグランドパトロンとして、名前を連ねさせていただいています(こちらのページに)。なんかちょっとエラソーな感じですよね。Kのあとに不要な半角が入っているのはご愛敬ということで…(笑。でも来年は直してもらいます…)。

これから5月上旬にかけて、なんやかんやとお手伝いに行ってきます。大したことはなにもできませんが、地元の若いミュージシャンが育っていくことに、ほんの少しでも力を貸すことになるなら嬉しいな、と思っています。

いざ、今年も、私のつくったこの貼り紙をば……。



8.4.12

EVOL いつか急にわかること。

ちょっとしたきっかけがあって、ブログを始めたころの記事を読み返す機会がありました。

かなり無理をして書いていたなぁとか、まぁ、いろいろ思うところはあるのだけれど、とりあえず、恥ずかしかったです…。

と、そんなことはいいのですが、過去の記事のなかに、とてつもなく大切なものを発見してしまったのです。



2007年2月の日記に(いいです読み返さなくて。だからあえてリンクなし)、ずっとずっと昔に一緒に仕事をしたグラフィック・デザイナーと再会して、彼がつくったショートフィルムについて書いていたのですが、このフィルム、私また観たいと思いつつ、永らくリンクが見つからなかったのです。

あれ以来また、会っていないけれど、嬉しいことに、彼、その後もフィルムの仕事もずいぶんやっているよう。

なにはともあれ、100の言葉より、この作品を見てください。本当に本当にキラキラと輝く小さな宝石です。たった5分間だけど、かわいくて、やさしくて、夢があって、あたたかくて、なんだか涙が出ます。


EVOLへのリンク。こちらからWMPまたはQuickTimeを選んで再生してください。

私もいま、また5回目の再生ボタンをクリックしました。


そして、急にわかってしまったのです。5年前に、なぜかぜんぜんわからなかった、このタイトル「EVOL」の意味も。いまとなっては、わからなかったことのほうが、驚きなのですが(汗)。

この映画をつくってくれたクリスに、心の底から感謝したい、イースターの夜。

次からきっと、Oxford CircusのArgyll Streetを通るたびに、後ろ向きに歩きたくなるはずです。


5.4.12

コーヒーのお作法、紅茶のお作法。

いつも利用しているコーヒー屋さんから、オンラインでオーダーしていた豆が届きました。



今回は1.5キロ。これを冷凍庫に入れておいて、その都度必要な分だけ出して、ミルで挽いてフィルターで淹れます。

「いちいち手で豆を挽くのは、面倒じゃない?」とよく聞かれますが、これがあまりにセラピューティック(自己療法的)で、癒されるんですよね。コーヒーの香りがふわーーっと漂ってくる、なんともいえない幸せな時間です。豆を出して、挽いて、淹れる、というプロセスを全部ひっくるめてのコーヒータイムなので、ちょっと茶道的なお作法ともいえます(あくまで私にとっては)。

お作法といえば、うちの相方(英国人)が、去年から引きずっていたひどい風邪をこじらせてしまい、何回も医者に通ったり、抗生物質を飲んだりした結果、なんとか風邪は治ったものの、一時的に変な後遺症が残りました。

それが、「ミルクティーが飲めない」というもの。

日本人が想像するイングリッシュ・ティータイムにありがちな、やれダージリンだ、アッサムだ、オレンジペコだ、ファーストフラッシュだ、なんて、平均的な英国人にとっては、どこ吹く風。濃いめにブレンドされたティーバッグで(しかもほんとんどの人が色さえ出てればOK)、ミルクたっぷりで飲むパターンが圧倒的。

私は、紅茶の雑誌の仕事に携わっていたときに、マスタークラスで一応「お勉強」した頭でっかちなので、ガンガンに沸騰させたお湯に、ティーバッグを30秒くらいつけて、色が出たら、ただフリフリしてカップから出してしまう、あの紅茶のいれ方がちょっと、というか、かなり気になるのですが、もちろん、相方もそういういれ方をしています。

お仕事を通じて、プロのティーテイスターの方を始め、業界の第一線で活躍される方々にもお会いしましたが、彼らのなかにも、仕事と してのお茶と、自宅で普通に飲むお茶を分けている方もいて、やっぱりふつうの濃いめのミルクティーを飲んでいる姿を見ると、英国人だなぁと思います。

そんなわけで、私にしてみたら、特に特筆すべきこともない、相方の紅茶の習慣ですが、このミルクティーが飲めない期間、「紅茶のリチュアル」が好きなのに、おいしく飲めないのが辛い、と言っていました。 彼の言うところの「リチュアル(お作法)」とは、職場で近くの人たちに「紅茶飲む?」と聞き、給湯室に行ってお茶をいれ…といった、すべてのプロセスを含んでいるのだそうです。

そういえば、紅茶の雑誌に携わっていたときに、専門家の方からうかがって、なるほどなぁと思ったことがあります。

コーヒーを飲んだら眠れなくなる、とはよく言いますが、同じようにカフェインが入っていても、紅茶を飲んだら眠れなくなる、ってあまり言いませんよね。

コーヒーのカフェインは、瞬間湯沸かし器のように、ガツンと飲むそばからいきなり来るらしいのですが、紅茶にはカテキンなどの成分が含まれているため、カフェインが作用していくのが実にゆっくりなのだそうです。だから、刺激がゆるやかなのですね。

ゆえに、専門家の方が言うには、「討論するときにはコーヒー、会談するときには紅茶」なんですって。会議のときに、攻めの姿勢でいきたいときはコーヒー、相手を懐柔したいときは紅茶を飲んでみてはいかがでしょうか。なんて(笑)。

会談用はこちら? でも英国人ってほんとアフタヌーンティーしないよね…。



2.4.12

第9回London R@iseカーブーツセール



冬の間お休みしていた、震災チャリティ向けのカーブーツセールを今月から再開しました。

今回は、なんでも売れるキルバーンの会場です。販売チームも、いままでの最多人数で、一番多い時間帯には、8人に。人数が多いと、実際に接客できるスペースは少なくても、人が集まっているように見えるので、おもしろいように人が集まってくる効果もありました。

直接会場に物品を持ってきてくださる方や、冬の間に、たくさんの方が物品を寄付してくださって、なかには日本からご出張やご旅行でいらした際に、不要品を持ってきてくださった方もいて、多くのものが集まりました。

この活動が、いままでよりも多くの方の知るところとなってきたので、いったい「私が寄付したものはどんなところで売られているの?」という疑問にもおこたえしたくて、今回は販売チームの人数が足りていたこともあり、私自身はTwitterにて、写真を交えて、ちょっとレポート風のことをしてみました。

ご興味のある方は、どうぞこちらからご覧ください。 日本時間で表示されてしまっているので、へんな時間のアップのように思われるかもしれませんが、マイナス8時間で活動しています。

「自分の息子はクライストチャーチに住んでいて、日本に対して、大変シンパシーを感じている」と言って、日本の急須と折り紙の本を寄付してくださった方、また、ほかのディーラーの方も、「今日売れ残ったもの、よかったらあげるけどどう?」って聞いてくださった方、震災一年を迎えての報道があったせいで、人々の頭にもう一度あの出来事がよみがえってきたのでしょうか。今回も、声をかけてくださる方がたくさんいました。

立っているだけで、手がしーんと冷えてしまうような寒い日だったため、週末のカーブーツセールにしては、客足もそれほど多くなかったのですが、売り上げのほうは、206.80ポンドに達しました。

これで、いままでこの活動で寄付してきた合計金額は、2000ポンドを超え、2173.22ポンドになりました。ご協力くださった方々、本当にありがとうございました。

継続は力なり。東北地方がもとどおりの生活を取り戻すまで、こちらも長い長い時間がかかることと思います。ほんのわずかではあるけれど、その間の経済的援助を続ける目的はもちろんですが、その間、ずっとなんらかのサポートが必要とされることを、人々の意識のどこかに喚起する意味もこめて、末永く続けていけたらいいなぁと思っています。

なによりも、ふだん自分がやっている仕事とあまりに違う、ものをもらって売るという行為は、なかなか興味深いです。人間観察にもなり、また仲間内で、あーでもない、こーでもない、と話をしながら外で過ごす週末は、なかなか楽しいものです。

もしもご興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひ、ご連絡ください。引き続き、物品のご寄付、また販売を一緒に行ってくださる方を広く募っています。

詳細はこちらから→www.facebook.com/LondonRaise