29.1.15

チャーチルと父の影

ウィンストン・チャーチルが亡くなったのは、50年前の1月24日、そして国葬が執り行われたのが6日後の1月30日だったそうです。

チャーチルといえば、「最も偉大な英国人」というアンケートでは常に首位を独占する、ふたつの戦争を主導(第一次大戦では海軍大臣、軍需大臣、第二次大戦では海軍大臣、そして首相として)、英国を勝利に導いた「ヒーロー」であることは、私がここで語るまでもありません。

没後50年ということで、英国では今年、さまざまなチャーチル関連のイベントやエキシビション、テレビ番組が企画されているのですが、そんななかで昨日放映されたBBCの「Churchill: The Nation's Farewell」で、興味深いエピソードがあったので、ちょっと書き留めておきたいと思います。

戦争が終わって2年後、1947年のある日、チャーチルが自宅の一室で絵を描いていたときのことです。

チャーチルが20歳のときに、40代の若さでこの世を去った父ランドルフの肖像画を模写しようとしていたところ、突然、部屋の片隅に誰かがいる気配を感じました。

赤いレザーのアームチェアに座っていたのは、彼の父ランドルフ。

ランドルフはチャーチルにたずねます。
「自分が亡くなったあと、19世紀の終わりからの英国はどうなったのか」

そこで、チャーチルは父にざっくりと、20世紀最初の数十年間に英国に起きた出来事、ボーア戦争、所得税の導入、第一次大戦などについて伝えるのです。

しかし、チャーチルが第二次大戦について口を開く前に、ランドルフは彼を遮って、こう言いました。
「お前が政治の道に進まなかったのは驚きだな。お前だったら国のためになにかできただろうに。もしかしたら、名を揚げることだってできたかもしれないぞ」

そう言い残すと、ランドルフはふっと消えてしまいました。

このお話は、チャーチルの死後、自筆のノートとして見つかったものだそうです。

父が亡くなるまで、よい関係を築くことができなかったチャーチルにとって、父親の存在は晩年になるまで心の深い部分にあったのかもしれません。

チャーチルが亡くなるまでの6年間、秘書を務めたという女性も、インタビューで「チャーチルの無意識の深い部分には、どうしたら父を喜ばせることができたのだろうか、という気持ちが死ぬまであったのではないかと思います」と語っていました。

どれだけ年をとっても、国のヒーローと謳われても、たったひとりの父親に認められることは、やはり特別なこと、なのでしょうか。ちょっと考えさせられました。

英国にお住まいの方に限られてしまいますが、この番組はあと29日間、BBCのiPlayerで観ることができます。上記のほかにも、へええ、と思う、興味深いエピソードが満載でした。





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23.1.15

ブローチの落とさないつけ方

久々に、マリルボーン・チャーチ・ストリートのアルフィーの取材をさせていただきました。英国では、たくさんのアンティーク・ディーラーがひとつ屋根の下におさまった建物を「アンティーク・アーケード」と呼び、アルフィーもそんな場所のひとつです。最後に取材させていただいたのが、2012年4月だったので、2年以上ご無沙汰していたのですが、変わらぬ顔ぶれが多く、「また来たのね」と歓迎されて、なんだかとても嬉しくなりました。

思わず見入ってしまうアイテムがいっぱいのアルフィーなのです。

アルフィーに関しては、「ことりっぷWeb」をご覧いただければ、ということで、今回は取材中の衝動買いについて、ちょっと触れたいと思います。

このお仕事をしていると、お店取材のときに、「衝動買いの衝動」に突き動かされそうになることもしばしば。興味深いものやすてきなものがいっぱいでも、最初から高くて手が出ないとわかっているときは、まだいいのですが、自分の射程範囲内の価格だったりした日には、心の羽交い締めをゆるめることなく、「私は狭い家に住んでいます。ものを置く場所は1ミリもありません」というおまじないをブツブツ口のなかでくりかえすことになります。

そんな努力の甲斐あってか、取材中にお買い物をすることはほとんどない私ですが、この日のアルフィーでは、ちょっと勝手が違いました。だって、目に入ってしまったのです、この3匹が。

「見ざる聞かざる言わざる」のブローチ

私は特にアンティークのコレクターでもなければ、アクセサリーをつける方でもないのに、すごくすごく欲しくなってしまったのです。お店の方によると、1910年から1920年くらいにつくられた象牙のブローチだそうです。

そこでお値段を聞いたところこれまた、手の出る値段。もうこれは運命、と思ってクレジットカードを差し出しました。

さて、そのときお店の方に「これ、使う予定なの?」と聞かれ、「もちろん」と答えると、ピンの部分を調整してくれて、「ブローチをつけるときは、2回刺すようにしてね」と言われました。実演して見せてくださったのは、こういうことです。

針をこんなふうに刺して出して刺して出します

「そうすることによって、ほらね」と、針をフックから外して「落ちないでしょ」とお店の方。なるほどー、と目からウロコでした。「なくしたくないブローチは、2度刺し」なのだそうです。

皆さまも、ぜひぜひお試しください。

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