7.9.13

かぼちゃ記念日。

男は、トレンチコートの襟を立て、帽子を目深にかぶり直した。約束の時間は、もうすでに過ぎている。ずしりと重いアタッシェケースを握る手に、より一層の力をこめながら、周囲を見渡す。それらしき人物は、見当たらない。

「シルバーフォックスか」
ふいに背後から声を掛けられ、振り向く目の端に黒いこうもり傘を持つ手を捉えた。
「約束のブツは持ってきたか」
中肉中背のその男のサングラスの向こうから、殺気をおびた強い眼光を感じる。だが怯えたそぶりを見せるわけにはいかない。

「ああ、持ってきたさ。だが、金が先だ」
できるうる限りの低い声で相手の反応を見るが、彼の指先は一ミリたりとも動く様子はない。
「わかってるだろう。ブツが先だ」
男の声は、氷のように冷ややかだった。どうやら、観念するしかなさそうだ。ここで時間を無駄にするリスクを冒すことのほうが危険に思われた。

「いいだろう」
トレンチコートの男は、相手のサングラスに視線を固定したまま、カチリという金属音とともにアタッシェケースを開けた。

ばーん。


……なんていうストーリーを思い浮かべずにはいられないような、小型のスーツケースを持って、今日も雨のなか畑に行ってきました。帰りに日本食材店でお米を買いたかったのと、さすがに夏の収穫期、現在、畑ではかぼちゃやズッキーニやきゅうりが次々と穫れるので、帰り道の荷物の重さがハンパじゃないのです。

傘をさしながら、ガラガラとスーツケースをひきずって畑にやってきた私を、門のところにいた男性は、ちょっと不思議そうに見ていましたが、人の目なんてかまっていられません。帰り道が楽なほうが優先です。「いやぁ、ちょっとキュウリを穫りに来たんですけど、あいにくの雨ですなぁ。ははははっ」と、聞かれてもいないのに話かけたりして、その場をやり過ごしました。

さて、畑一年生の私にとっては、なにもかもが初めてのことだらけで、どのタイミングで野菜を収穫すればいいのか、ということについて、ネットにかじりついて、いろいろ調べています。ものの本によると、かぼちゃは、ヘタの部分がコルク化してから収穫、とありますが、コルク化といっても、どの程度コルク化したらOKなのか、さっぱりわかりません。ネットで情報収集しているなかで見つけたのが、「へたの部分に横に向かって小さな亀裂が入ったら収穫適期」というもので、先々週あたりから、ぼちぼちと横に亀裂の入るものが出始めたので、その都度収穫をしています。

ところが、この横の亀裂ですが、小さくてもすぱっと横に亀裂の入るものもあれば、とことんデカくなっても、なかなか入らないものもあるのです。小型かぼちゃのはずなのに、直径20センチ以上にも育ってしまった、かぼちゃ畑の横綱がいて、この横綱にはなかなかこの亀裂が入らず、どうしたものかと、毎回まじまじとヘタを眺めていました。

ところが今日、じっと見ているうちにこの横綱のヘタに、なんとなく横に傷っぽいものがあるような気がしてきたので(気のせいかもしれないんですけど)、「いまだっ」とバシッと刈り取りました。

実は今日収穫した3個で、ちょうどかぼちゃを10個収穫したことになるので、かぼちゃ記念日ということで、集合写真を撮りました。

ちょっと家族写真のようではないですか。

10個って、書きながら、ここに7個しかないのは、2個お友だちにあげて、1個はすでに食べてしまったからです(笑)。

かぼちゃは、「キュアリング」といって、収穫してから1〜2週間、室温でキープすることによって、甘みが増すのだそうです。というわけで、どれをいつ穫ったのかわからなくならないように、日付のシールをつけました。

私にとっては、とにかく日本の野菜、特にかぼちゃが食べたい、というのが、畑を始める最大のモチベーションだったので、なかなか満足です。まだ何個か、横に亀裂が入らずに畑でその時を待っているかぼちゃがあるので、最終的に全部で何個になるのかはわかりませんが、最後まで無駄にせずに食べ尽くしたいと思います。


撮影風景(笑)。






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