12.10.13

ポルトガルに一目惚れ(2)

「アートとは遊びごころである」……とは、私がいま思いついた言葉なんですけど、これ、まんざら嘘じゃないような気がします。が、どう思われるでしょうか。

ひとつ前のポストでも書きましたが、今回のポルトガル旅行は、ロンドンからリスボンに飛んで、カシュカイシュという海辺の街から始まりました。空港に着いて、地下鉄でリスボンの中心に向かい、その後リスボンのターミナル駅からカシュカイシュまで、各駅停車でも30分ちょっと。ポルトガルという国に足を踏み入れて、カシュカイシュのホテルに到着するまでのわずか1時間ほどの間に、すでに、私はこの国の余裕というか、遊び心にすっかり心を奪われてしまいました。

例えば、空港の地下鉄駅で。

なーんか勇気づけられる言葉じゃあ、ないですか。

生活に必要かと言われると、ぜんぜん必要じゃない、だけどちょっと心を豊かにしてくれるもの。ふっと表情を緩ませてくれるなにか。そういうものが街のそこここで目に飛び込んできて、なんというか、そんなアーティスティックな遊びごころに、一目惚れしてしまったのです。

例えば、電車のドアにも。ちょっとしたデザインに遊びごころがあるのです。

チケットを買いましょう、とかそういう意味?

ほかにも、「不思議の国のアリス」のなかに出てくるウサギが大きくいくつもプラットフォームに描かれている駅もあり、なかなか迫力がありました。

カシュカイシュでも、たぶん一日30人くらいしか通らないんじゃないかなーと思うような場所に、こんな休憩所みたいなところがあり、屋根の格子が無駄に計算されていて、美しい影を地面に落としていたり。

思わず、立ち止まって見入ってしまいます。

たぶん、ほとんどの人が目にとめないだろうなぁと思う、奥の壁には、こんな絵が描かれていたり。

ついでに、このフキダシの(定番すぎる)落書きにも笑ってしまいますが。

海辺のショッピングセンターの壁がこんなふうに……

一見よくわからないと思いますが……。

ちょっとよく見ると……

アジサイの花は、壁に描かれた絵で、ローズマリー(?)のような鉢植えだけが本物です。

こちらはポルトの街中で。

きれいなアズレージョですが、ベランダに飾り窓の女?

ちょっと拡大……。

下の階にもマネキンがいるのです。

当然のことながら、食品のパッケージのデザインも優れたものが多いなぁと思いました。

イカとかタコの煮込みの缶詰が、最高においしいのです(涙)。

国の経済状況が悪く、苦境のなかにいる国、と聞くと、まず、壁に描かれた「FUxK」とか、街に溢れる物乞いとか、どこか荒んだ空気とか、そういったものを連想してしまいがちですが、国の置かれた経済的な苦境と、人々の遊びごころは、実のところそれでも共存できるものなのだとわかって、心からほっとしてしまったというか、そこに救いを見たような気がしました。

肩肘張らない、どこかひとつ力の抜けた遊びごころからくるアートが、こんなにカジュアルにもたらされる背景に、この国の人たちの精神的な余裕のようなものを感じてしまうのです。それは、あの美しいアズレージョを、風雨にさらされることもいとわず、惜しげもなく外壁に使う精神とちょっと通じるのかしら、とも思ったり。

このスカートも、たぶん誰かのいたずら……とは思うのですが、なーんかキュート。

平日は静かなカシュカイシュでしたが、週末の夜にはものすごい数の人たちがやってきて、お祭り騒ぎでした。駅前にはこんな顔が設置され……。

駅前のロータリーの中央に立体的な顔型の巨大スクリーンが設置され、
そこに人々の顔が映し出される仕組みです。すごいリアルでした。

美術館に行かなくても、生活のなかで触れられる小さなアートがいっぱいあるっていいですよね。



10.10.13

ポルトガルに一目惚れ(1)

ポルトの一角。壁には一面に、惜しげもなくアズレージョが。

先月、休暇でポルトガルに10日間ほど行ってきました。

格安航空会社のフライトを使って、まずはリスボンに飛び、リスボンから電車で30分足らずのカシュカイシュという海辺の町に6泊、そしてリスボンから長距離電車に乗って3時間、ワインで有名なポルトに向かい、そこで3泊してきました。

夫のいとこがポルトガル人女性と結婚して、ここ10年ほど住んでいること、イカやタコなど英国ではあまり一般的じゃない魚介類も豊富で、食べ物がおいしいと聞いていたこと、ちょっと前に雑誌の企画でポルトガルのタイル(アズレージョ)に関する記事に関わったこと、カステラ食べたい〜などと思ったこと、などなど、ひとつひとつはかなり薄い動機づけですが、そういう小さな「行ってみたいかも」が重なって、ここ数年私にとってポルトガルは「ちょっと気になる国」ではありました。そんな折に、以前から愛用しているオンラインの旅のセレクトショップで、カシュカイシュのホテルのスイートルームが安く出ていたので、「はっ、これはっ!」と飛びついた次第です。

今回、ポルトガルに行くにあたって、いくつか関連の本を日本から取り寄せましたが、そのなかで、本当に本当にお世話になったのが、矢野有貴見さんの「レトロな旅時間 ポルトガルへ」というガイドブックです。ふつうのガイドブックとちょっと違って、著者の矢野さんの目線が光る、彼女の好きなものを詰め込んだんだろうなぁと思えるつくりになっています。

こちらの本のタイトルにも「レトロ」という言葉が使われているとおり、実際に行ったポルトガルは、なんとなく「なつかしい」感じのする場所でした。初めて行ったこの場所の、なにが「なつかしい」と感じさせるのか、自分なりに考えてみて、ちょっと語弊があるかもしれませんけど、「貧しさ」なのかなぁと思ったりもしました。貧しさというと、ネガティブな、「負」の印象がつきまといますが、決してそうではなく、古いものがそのまま修復もされずに残っている、そういうビジュアルが「なつかしい」という感情を刺激するんじゃないか、と思ったのです。

金融業界では「PIGS」(ポルトガル、アイルランドまたはイタリア、ギリシャ、スペイン)なんて言葉があるようですが、ポルトガルは自国では経済回復が難しいと言われている、経済的には苦境のなかにいる国として知られています。経済状況が悪いことは、決して喜ばしいことではありませんが、それでも皮肉なことに、好景気の国の都市がおしなべて、資本主義経済にお決まりのチェーン店で埋め尽くされて、その土地のアイデンティティを失っていくのに対して、例えばリスボンもポルトもちょっとボロッとしてるかもしれないけれど、そこには17世紀とか18世紀からあったと思われる美しいアズレージョが残っていて、無性に心を打つものがあります。そしてなによりも、そこで暮らす人々に、すさんだ感じがないことに救われるのです。

そんなこんなで、何回かに渡って、私がポルトガルで心奪われたものについて綴っていきたいと思いますが、まず今回は私の目を惹きつけてやまなかった、美しいアズレージョを一気に写真でご紹介します。

アズレージョというのは、もともとアラビア語の「磨いた石」を意味する言葉がその語源で、確かにトルコやモロッコで見られるようなスタイルのものもたくさん見かけました。しかしトルコなどでは、建物のなかに使われるこういったタイルが、惜しげもなく外壁に、しかも一面に張られているのが圧巻です。

とにかく普通のお家の壁が、こんな感じなのです。

アズレージョと聞くと「青」の印象が強かったですが、さまざまな色があります。

よく見たら色違い。

こんなふうに壁一面に。

何回も張り替えられたのかなぁと思う建物もあります。


アズレージョは、陽光によく似合う。

オランダのタイルのようなものも。

街角の平屋が続く小道もアズレージョ。まさに生活風景なんですね。

ポルトの教会の外壁に張られたアズレージョ。圧巻でした。

こちらはポルトの駅のなかのアズレージョ。

街角のキオスクにもタイルが使われています。

そうそう、アズレージョについていろいろ知りたくて、前述のガイドブックに載っていた、リスボンの国立アズレージョ博物館にも行ったのです。現在も使われている古い修道院の一部に設置された博物館で、チャペルもあり、展示物もさることながら、その建物自体があまりに美しかったです。

こちらはアズレージョ博物館の食堂のなか。

博物館の中庭に面したアズレージョ。

夢のような時間を過ごさせていただきました。

ちょっと行きづらい場所ですが、駅から20分歩く価値は充分にあると思います。機会がありましたら、ぜひ。

Museu Nacional do Azulejo  (National Tile Museum)
Rua da Madre de Deus 4, 1900-312 Lisboa
http://www.museudoazulejo.pt/