25.12.14

Merry Merry Christmas and an Even Happier New Year!

ふつーにお買い物カートをひきずって、道を歩くサンタズ

今年も、いいことも悪いこともいろいろあったなぁと振り返りつつ。
そして、周りの皆さまに、心から感謝をしつつ。

Peace on Earth
皆さまのもとにも、すてきなクリスマスとハッピーな2015年が訪れますように☆


--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited

24.12.14

クリスマスイブだから、ビザの話をしよう。

クリスマスイブの夕べ、皆さまどのようにお過ごしでしょうか。
イヴ(唇を噛む発音)の夜だから、ヴィザ(唇を噛む発音)の後日談について、書きます。

少し前に、友人Mちゃんのビザの問題で法廷に行った話を書きました。
その後、裁判長も、内務省の担当者も法廷で「EU市民の配偶者は、『カード』がなくても英国に滞在できるし、就労もできる」と言い切ったにもかかわらず、内務省から再度「カード」の申請をするように言われたことは、追記に書いたとおりです。

そこで、裁判所で言われたことと違う、と、再度議論することもできたのかもしれませんが、1年以上引きずったこの問題、すっかり疲れてしまったMちゃんは、5年の「カード」の申請をしたところ、なんと、じゃじゃーん! 

Mちゃん、モザイク処理までしてくれて、ありがとう!!

今度は1ヵ月ほどで、無事に「カード」の発行がなされた、とのことです。

しかしまぁ、「カード」とはいいながら、パスポートに「カード」と書かれた査証が貼りつけられただけで、結局「カード」の定義はわからずじまい、ですが……。

とにもかくにも、無事にパスポートが戻ってきて、1年以上ぶりにMちゃんは国外に出ることができました。本当によかった!!

昔、海外旅行に行くたびに「命の次に大切なパスポート」という言葉を何度となく聞いてきましたが、海外に住んでいるとパスポートがない(=なにかあっても、海外に出られない)というのは、本当につらいものです。

ビザのきまりごとは、ころころと、その持ち主の意志とは無関係にお役所が好きなように、好きなときに変えてしまいます。普段あまり意識していませんが、外国人の足下は、実はすごく簡単に崩れるくらい危ういものなのだなぁと、こういうことがあると自覚せずにはいられないですね。

--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited

6.12.14

エール飲み比べ大会(番外編)

先日、「スーパーで買える、英国地ビール5選」というテーマでのコラムの執筆のお話をいただきました。

私を個人的に知っている方は、ご存知のとおりなのですが、なんと私は、哀しいかな、「下戸」です。

そこで、お酒が好きなお友だちを我が家に緊急召集、試飲会を行ってひとつひとつ評価してもらい、エールを飲み慣れていない人でも飲みやすいビギナー向けの5種類を厳選したのが、マイナビに掲載していただいた記事です。

スーパーで買えるエールの数は多いのです。

さて、その試飲会の際に、選外となったものから3種類について、ご参考までにレポートしたいと思います。

オールド・スペックルド・ヘン

まず、こちら、「オールド・スペックルド・ヘン」に関する感想。
酸味は強い。深みはあまり感じられない。パーソナリティーがある。どこか中途半端な気がする。ワインのロゼを思わせるような味。ほかのエールとは違う感じ。好き嫌いは分かれそう。
このビールに関しては、賛否両論で、5点満点で、4.5点をつける人もいれば、2点の人も。特徴のあるエールを飲みたい人にはよいのかもしれません。

ビショップス・フィンガー

お坊さんの指、という名前のこちらのビールにもさまざまな意見が。
苦いのが苦手な人でもいけそう。おもしろい味。エールの割には炭酸が強い。魚に合うかも。フィッシュ&チップスに合いそう。チキンにも合いそう。フルーティーな感じはあまりない。後味が残る。
魚や鶏肉のお料理と一緒に試してみるにはよいかも、です。

ホブゴブリン

最後にこちらのビールです。ボトルのイラストが印象的だったので、ラベル買いしたもの。試飲隊からの感想は……。
まさにエールという感じ。あまり特徴のないエールらしいエール。かすかにフルーティー。黒糖のような後味。まさにエールの色、エールのにおい。リフレッシング。飲みやすい。
と、ネガティブな意見は少なかった割には、総合点が低かったので選外に。王道的エール(そんなものがあるとするなら、ですが)を試してみたい方には、よいかもしれません。

というわけで、選外から3点をご紹介しました。
選ばれた5種類については、ぜひぜひ、こちらの記事をご覧いただければと思います。

英国に行ったらエールで乾杯! スーパーで見つけたお土産にもなる地ビール5選
http://news.mynavi.jp/articles/2014/12/05/britain/

--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited





5.12.14

編みものが好き。

ここ数週間の間に、2冊もすてきな本が届きました。

表紙を見るだけでわくわくする2冊の本。

1冊は、スコットランドの取材旅行のコーディネートを担当させていただいた三國万里子さんの「アラン、ロンドン、フェアアイル 編みもの修学旅行」 、もう一冊は同書で取材をさせていただいたケイト・デイヴィスさんの「YOKES」です。

三國さんのスコットランド紀行に関しては、ミセス11月号で執筆もさせていただいて、とても思い出深い取材旅行でした。

おもえば、このお仕事のお話をいただいてからというもの、私の編みもの熱もじわじわじわと上がってしまい、ストレス度の高かった時期も、手を動かして編むことで、心の平安を保っていられたような気がします。

こういった作業で、ストレスを回避できる(私のような)人もいれば、ちまちました作業がストレスになる、という人もいて、一概におすすめできるわけではないのですが、それでもやっぱり、生きることの理不尽さに比べて、編みものの「裏切らなさ加減」は、私には貴重なものに思えます。一目編んだら、きっちり一目そこに残るのですから。

どれだけ努力しても、思うように成果が見えないことが多いこの世の中で、よくも悪くも、ここまで実直にやったことが見えるものって、あんまりないように思うのです。

そんなわけで、三國万里子さんとケイト・デイヴィスさんの既刊から、いくつかの作品を編んだので、かなり不揃いではありますが、ちらりとここに写真をアップします。

三國万里子さんデザインのすずらんのショール。コットンで編んだので、夏の間も大重宝でした

どうでしょう。すずらんに見えるでしょうか。三國さんから、お花の部分はゆるめに編んだ方がきれいにできる、と貴重なアドバイスをいただいたので、途中からゆるめに編みました。初めての三角ショールで、編んでいるうちに本当に三角になっていくのに感動。ちょうどうちにあった糸をきっちり計算したかのように最後1メートルくらい残して終わったのも、かなり気持ちがよかったです。

ケイト・デイヴィスさんデザインのミミズクのセーターとベレー帽

実は、英語の「編み方」を読むことになかなか慣れず、いままで敬遠していたのですが、ケイトさんのインストラクションは、本当にわかりやすく、いまでは日本の編み図を読むよりも、英語の編み方を読む方が楽に思えるくらいです。ミミズクのセーターは、ケイトさんのおすすめで取材させていただいた、エディンバラの「Kathy's Knits」のキャシーさんに、「太い糸でかっちり編んで厚手にするのもいいけれど、ちょっと細めの糸で編むともこもこしなくて、それもいいですよ。どちらでもお好みで」というアドバイスをいただき、オリジナルよりも細めの糸を見立てていただいたものです。

ざくざく楽しく編んで、思ったよりも早くできあがったのですが、なんとミミズクの目にするための小さなボタンがなかなか見つからず、長いこと目なしのまま、放置されていました。リバティでようやく、希望サイズのボタンを見つけて、すべてのミミズクに目を入れ終わったときは、まるでだるまの目を入れたときのような達成感。こちらもミミズクに見えるでしょうか。

そんなわけで、この次はなにを編もうかなぁと、本を見ながらわくわくする日々です。

--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited

13.11.14

コヴェント・ガーデンのクリスマス支度

いよいよ11月も中旬。オックスフォード・ストリートのクリスマスライトも灯り、ロンドンの街がどんどんクリスマスづいていく時期です。

今日、コヴェント・ガーデンを通りかかったら、こちらもクリスマス支度が進んでいましたので、その様子を写真でご紹介します。


すでにクリスマス・ツリーが登場。

見上げると、アップル・マーケットにも飾り付けが。
冬の風物詩モルトワインのスタンドもありました。

モルトワインのスタンドには、笑顔のジンジャーマンが勢揃い。

光り輝くトナカイも。写真を撮る人で溢れていました。

駅前はこんな感じです。

ウィンドウも冬支度です。


どんどん変わっていく街の様子を、これからもできる限り、お伝えしていきたいと思います。

--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited

28.10.14

ルイスに週末旅行

今月の初旬から、11月上旬にかけて、ブライトン・フォト・ビエンナーレという写真の祭典が、イングランドのサウスイースト地域で開催されています。その一環で、ブライトン近郊のルイスという町で行われた、ピンホールカメラのワークショップに参加してきました。

会場は、町のまんなかの高台にあるルイス城。

1000年近く前に造られた古いお城です。

ワークショップといっても、参加者にそれぞれピンホールカメラが渡され、簡単な説明を受けたら、それぞれ好きなように撮って、係の人に渡して現像してもらう、というもの。

コーヒーの缶に穴を空けてつくられたピンホールカメラ。

手ぶれしないように、しっかりと固定して、穴についたテープをはずし、40〜60秒露光。

というわけで、私と夫も、お城の近くで、なにか撮ってみようと2回ずつチャレンジしました。私が被写体に選んだ場所は、こちらです。

年号が入っているゴミ箱を初めて見たので、おもしろい、と思ったのですが。

そうそううまくいくはずもなく、こんな感じ。

全面心霊写真のような(笑)。右下(横位置)には、うっすらとベンチが見えます。
左下(タテ位置)は、ベンチのバックの石の壁がうっすらと。

夫が撮った左上の写真には、私が写っているはずなのですが、むむむ。よーく目を凝らしてみると……。

たしかに写っているような気もします。手に持っているのはiPhone。

ピンホールカメラは、それはそれで楽しかったのですが、ルイスではそのほかにも、英国で現存する最古の写真スタジオ「リーブス」が保管してきた、ルイスの歴史的な写真を、町のショップ55軒のウィンドウに展示(Stories Seen Through A Glass Plate)していて、その関連のエキシビションもルイス城のミュージアムで行われていました。

今回展示されているのは、1800年代なかばから1900年代なかばくらいまでのものが中心。

ショップのウィンドウの展示は、いずれも、「その場所から撮影したもの」と「その場所を撮影したもの」が中心で、思わず立ち止まって、いまの景色と比較してしまいます。

本屋さんのウィンドウに飾られた写真。

ライトボックスで展示されているので、夜見て歩くのも楽しいです。

ルイスは、いまでもほかにはない独自のお店、アンティークショップ、ギャラリーなどが多く、ただウィンドウショッピングをしているだけでも、楽しい町です。

この時期、英国は11月5日のガイ・フォークス・デー(ボンファイヤー・ナイトとも呼ばれます)に向けて、全国で花火大会や盛大なかがり火が行われるのですが、ルイスはその派手さでも知られています。

というのも、プロテスタントの教会の多いルイス、メアリー一世の時代、宗教弾圧により英国全体で300名近くのプロテスタントの教会関係者が処刑されたそうですが、そのうち17人がルイスの人間だったとのこと。そのため、カソリック教徒による陰謀が失敗したことを祝う「ガイ・フォークス・デー」は、ルイスの人々にとって大きな意味をもつものだった、ということらしいです。

ちょうど通りかかったパブのなかでも、「ボンファイヤー・ソサエティ」の集まりが行われていました。
ルイスにはこのようなボンファイヤー・ソサエティがいくつもあり、活発に活動しているようです。

11月上旬にルイスに行く機会のある方は、ぜひ、ボンファイヤーを見に行くのも一興かもしれません。

最後にひとつ、オマケネタ。ハイストリートの一軒のショップのディスプレイがおもしろかったので。

アクセサリーのお店で、古い写真にイヤリングをつけて、ディスプレイしています。

このあたりまでは、まだいいのですが……。

思わず笑ってしまいました。

ルイスは、ブライトンから電車で15分ほど。ロンドンから直行で1時間ちょっとです。日帰りも可能ですが、できれば一泊してゆっくり散策するのが楽しい場所です。

ブライトン・フォト・ビエンナーレのウェブサイト
http://bpb.org.uk/

リーブス・アーカイブのウェブサイト
http://reevesarchive.co.uk/

--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited






19.10.14

ヘイゼル・ティンダルさんのフェアアイルニット・ビデオ

「ミセス」11月号の記事で取材をさせていただいた、シェットランドのニットデザイナー、ヘイゼル・ティンダルさんから、彼女がここ数年間制作していたフェアアイルニットのハウツービデオが完成、発売になったとのお知らせをいただき、私もさっそく購入してみました。

なんとDVD2枚、175分間のたっぷりハウツー。

ヘイゼルさんオリジナルデザインのカーディガンの作り方を、作り目からフィニッシュまで、ていねいに解説しているビデオです。

それぞれのテクニックにメニューから飛べるようになっているので、このカーディガンをつくるときだけでなく、ちょっとわからないときに、参考にできるのが便利です。

DVDバージョンとダウンロード・バージョンがあり、日本からもダウンロード可能だそうです。現在のところ英語のみですが、本場のフェアアイルニットのテクニックを学びたい方には、おすすめです。ヘイゼルさんのウェブサイトから購入できます。


--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited




18.10.14

「ミセス」11月号とシェットランドの魔法使い。

ブログでのお知らせがちょっと遅くなってしまいましたが、現在発売中の「ミセス」11月号、「フェアアイルニットの故郷へ ニットデザイナー三國万里子さんが旅する英国スコットランド」の取材、文、コーディネートを担当させていただきました。よろしかったら、ぜひお手にとってみてください。
英国政府観光庁のブログでも、最初の見開きと一緒にご紹介いただいています。ご興味のある方は、こちらもどうぞ)

この取材旅行では、本当にたくさんの方々にお世話になりました。
各地の観光局の方々をはじめ、取材先のショップ、ニットデザイナーさん、野鳥観測所のレンジャーの方まで、たくさんの方のご協力があって、できあがった記事です。

特に、シェットランドのメインランド島で、ずーっと一緒につきあってくださったのが、ガイド兼ドライバーのマグナスさんです。

子羊をひょいと持ち上げるマグナスさん。手慣れています。
フェアアイル・セーターもすてき。

マグナスさんは、地元の議員をしていたこともあり、とにかく顔が広い! 土地に関する深い知識とネットワーク力で、「子羊に触りたい」、「色つきの羊の写真が撮りたい」などなど、さまざまな要望を、何度となく「Nothing is impossible」と言いながら、ひょいひょいと叶えてくれる魔法使いのような人でした。取材旅行期間中、取材先でお話が長引いてしまったときにも、次の取材先に連絡を取りながら、フレキシブルに、そしてスムーズに段取りを調整してくださったのもマグナスさんです。

今回、取材旅行に出かけたのは、ちょうど子羊が生まれる時期。シェットランドの島の人々にとって生命線ともいえる羊は、日頃から非常に大切にされていますが、特に子羊が生まれる時期は、24時間誰かが番をしなければならないため、通常は正社員として別の場所で働いている人々も、親戚の農場の手伝いにかり出されたりするそうです。普段は空港で勤務しているというマグナスさんの息子さんも、そんなひとり。彼が有休をとって手伝いに出向いていたご親戚の農場にお邪魔させていただき、かわいらしいチビちゃんたちをたくさん見せていただきました。

この仕事をしていなかったら絶対に出会わなかったであろう、昨日まで知らなかった人の生活を垣間見せていただき、そしてお話を伺えるのは、仕事を超えて最高の幸せです。今回、そんな出会いをたくさんもたらしてくださったマグナスさん。そして、そのマグナスさんとの出会いをもたらしてくださった観光局のご担当者をはじめ、ご協力いただいたすべての方に、心から感謝するばかりです。

フェアアイルニットの魅力にすっかりノックダウンされてしまいました……。

この旅の模様を含むニットデザイナー三國万里子さんの新刊「アラン、ロンドン、フェアアイル 編みもの修学旅行」は11月中旬に発売されるそうです。私も三國さんのいちファンとして、いまからワクワク、楽しみにしています。


--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited

6.10.14

ビザの問題で法廷へ。



裁判所の入口。どこぞのオフィスのような簡素さですが。


意味深なタイトルをつけましたが、私自身のビザの問題ではなく、いつも仲良くしてもらっている友人に、図らずもビザの問題が発生し、私も法廷に同席してきました。

私も含め、自分の生まれ育った国以外で生活している多くの人にとっては、死活問題となることもあるテーマなので、きっとご興味のある方も多いのではないかと思い、本人の許可をもらって、ここでちょっと詳しく書かせてもらうことにしました。

友人Mちゃんは、イタリア人の夫Aさんと英国在住ほぼ10年。学生だった期間をのぞき、過去8年ほどは、まっとうな会社勤めに加え、フリーランスでもお仕事をしていて、税金もきっちり毎年申告して払ってきました。

去年12月に、EEA(欧州経済領域)市民の配偶者のための5年の滞在証が切れるにあたり、今度は10年間のレジデント・カード(「カード」と「ビザ」の違いが私には分からないのですが)を申請しましたが、今年3月に内務省から不可の返事。そればかりか、彼女のパスポートは戻ってこず、「自主的に国外退去しない場合は、強制退去となる可能性」または「アピール(再審議を求めること)」の二択を迫る内容で、国外退去をする場合は、帰国日にパスポートを直接空港に届ける、とのことでした。

安穏と10年近くも生活してきて、ビザ(カード?)が取得できないばかりか、「強制退去」の4文字に脅かされる事態に、本人はもちろんですが、私もなにかの冗談じゃないかと、思ったほどです。

内務省からの手紙のなかで、理由として挙げられていたのが、過去5年間のなかで、Mちゃんの夫であるAさんに失業期間があり、その失業期間中に失業手当の申請をしていない時期があった、ということ。

確かにAさんは失業していた期間があって、最初こそジョブ・センター(日本でいうところのハローワークにあたる機関)に通っていたものの、途中からやめてしまったのは事実です。というのも、ジョブセンターでは、建築、デザイン関係で大学院まで出ている、彼の資格に見合う仕事は、まったく紹介してもらえず、Mちゃんの収入で生活のサポートはできるから、そんな無駄なことに時間を費やすよりも、独自に就職活動をしたほうがよい、という結論にふたりが達したからです。

しかし、国から手当を「もらわない」ことが、問題になる日がくるとは、当人はもちろん、周りの人間に露知らず。

内務省側からの主張によると、失業手当を申請していることで失業が証明されるところ、失業の証明もなく、かといって税金も支払われていない、この空白期間によって、配偶者であるMちゃんには10年間の「レジデント・カード」の取得資格がない、ということらしい。

国に税金を納め続け、EEA市民である夫を養ってきて、この仕打ち。Mちゃんは、Aさんが空白期間にまともに就職活動を行っていたという証拠として、300ページ以上のメールのコピーやら、手紙やらをまとめ、アピールの手続きをしました。アピールの方法にも、書面だけで返事をもらう(80ポンド)、法廷で審問を受ける(140ポンド)という、ご丁寧にも2つのコースが用意されていて、Mちゃんは後者を選びました。

そんなこんなで、3月にアピールが受理され、審問の日が6ヵ月後(!)の9月30日に決定。その間、もちろんパスポートは取り上げられたままです。

この6ヵ月の間に、Aさんの身内にイタリアで突然の不幸があり、私の夫もMちゃんのために、一時的にパスポートの返却ができないか内務省に問い合わせをしたのですが、「ここでパスポートを返す場合は、アピールはなかったこととされ、英国にこの先2年間入国することはできません」という返事(この回答の「2年間云々」の真偽のほどは疑わしいらしいですが)。パスポートのないMちゃんは大切な人の死に目に会うことも叶わず、苦しい時間を過ごすことになりました。

とにもかくにも、ようやく審問の日がやってきて、我々夫婦も証人として同行することに。エンジェルの「トリビューナル・サービス(裁判所)」に朝9時45分までに来るように、とのことだったので、時間通りに到着、第27法廷に入りました。

裁判所に入るMちゃんの凛々しい後姿。プレッシャーのせいか、朝から鼻血を出したそうですが。

簡易的なものとはいえ、正面のちょっと高いデスクの向こう側に裁判官席、左右に検察と弁護側のデスクがあり、裁判官と向かい合うテーブルには、アピールした当人が座ることになります。右後の端にバスの座席のように、二人ずつ横に並んだ椅子が4列。ここに我々を含め、今日審問を受ける3グループが座って、時間が来るのを待ちました。向かって左側の席には、スーツケースのような書類かばんを引きずった内務省からの担当者が着席し、間もなく裁判官が入廷、全員起立して、裁判官の「お座りください」の一言で再び着席します。

そこで、裁判官より、今日のスケジュールが説明され、Mちゃんのケースは最後の3番目とのことで、どんなに早くても11時半までに始まることはないので、外で待っていていい、と言い渡されました。どうやら、弁護士をつけていないのは、Mちゃんだけの模様です。

最初のひと組が法廷から出てきたのが11時半、そこで、2組めの傍聴をするのもよかろうと、我々もなかに入りました。

簡易的なものではありますが、公的な裁判にはかわりがなく、誰でも傍聴できるというのが前提なのでしょう。東南アジアから英国にやってきた母を追って、あとからやって来たまだ10代の娘さんのビザの申請が拒否されたという、人生ドラマをハラハラしながら傍聴しました(結論として、彼女はそのまま滞在できるという結果のよう。人ごとながら「ほっ」)。

果たして、Mちゃんの順番がまわってきたのは、12時45分。しかも、順番がまわってきた!と思いきや、「もうお昼時間なので、内容をざっくりまとめておいて、午後から審議をしましょう」などということになり(んがー)、2時に再集合、という流れに。だったら最初から2時に呼んでくれればいいのに、という思いと空腹をかかえて、しばし娑婆(しゃば)の空気を吸った後、再び第27法廷へ。

法廷では、裁判官席の正面にMちゃんとAさんが座り、内容的にはAさんの職歴と空白時間について、裁判官から質問が集中しました。ひととおり、事実関係の詳細の確認をしたあとで、裁判官に促されて、内務省側の担当者が口を開きました。

「そもそも、あなたが申請したこの10年間の『レジデント・カード』がもらえないことで、あなた方にとってなにか不都合があるのでしょうか」

この質問には一堂「はぁぁぁ?」(声には出しませんでしたが、そういう感じ)。

「この国でこれまでほぼ10年間、ふたりの生活の基盤をここで築いてきたわけですから、これからも同様に生活していくつもりなのですが?」というAさんの言葉にさらに

「ですから、この10年間の『レジデント・カード』である必要がどこかにあるのですか?」と内務省の担当者。

「??? Mがビザをもらえないことによって、二人が別々の人生を歩んでいくようなことは、我々の想像の範疇にはなく……」とAさんが言ったところで、今度は内務省の担当者のほうが慌てた様子で、

「別々の人生? は? あなた滞在はできるのよ?」と言うので、我々一堂目をぱちくり。彼女は「Of course you can stay」という言葉を何回か繰り返しました。

「やはり、勘違いしているような気がしていました。あなたはEEA市民の配偶者なのだから、カードなしでももちろん滞在する権利があるわけです。ただ、過去5年間の彼の職歴に空白期間があるために、この10年間のレジデント・カード、この特定のカードの取得資格がないというだけなのですよ? わかりますか?」

なんと! しかし、なんかちょっと最初のレターと話が違うような……?

「でも、このレターには、いますぐ荷物をまとめて出ていけ、と『nasty(悪意ある)』なことが書いてありますけど?」とAさん。

そこで裁判官も「あなた方が、そう思うのは無理もないと思います。このレターの書き方は、そう思っても仕方がないです」とAさんに同意を示しました。

一方Mちゃんは、あっけにとられて、混乱している様子。まったくもって無理もありません。

「今回、10年間のレジデント・カードの取得資格はありませんが、彼が就職した日から証明可能な連続5年間の就労、または失業の記録を提出できるようになれば、またこの10年間のカードの申請が可能です。もっと早くに、それを誰かが説明してくれたらよかったのに、と思います」などと、のたまう内務省の担当者。

裁判官も、まとめるように、
「例えば、雇用者に対する証明として、また再入国の際の入管で、カードがあれば、証明が簡単にできるという利点はありますが、EEA市民の配偶者は、カードなしでも滞在も就労もできるわけです。いいですか。それでは、1週間ほどで今日の内容をまとめたレターをお送りしますね」という裁判官に、なんとなく狐につままれたようなMちゃんとAさんも「はい……」。

結果、国外退去という最悪の事態にならず(というか、最初からそんな心配をする必要もなかったという)、しかしながら、10年間のカード取得に関するアピールとしては「敗訴」という結果となり、まぁ、よかったのはよかったのですが、どことなく「もやっと感」。我々も証人として発言する機会を与えらるまでもなく、すごすごと退廷しました。

裁判所からの帰り道、4人であれこれと考えたのですが、もしも、法廷で聞いた内務省担当者の言葉が正しいのなら、そもそも、彼らのレターにあった

You do not have a basis of stay in the United Kingdom under the Immigration (European Economic Area) Regulations 2006. 
As you appear to have no alternative basis of stay in the United Kingdom you should now make arrangements to leave.

という部分に、決定的な「間違い」があるような気がしてならないのです。単純なコピーペーストのミスなのか、なんなのか、わかりませんが、裁判官ですら「誤解しても仕方がない」と同情を示す、この文面で、人生が変わってしまう人もなかにはいるのではないかと思います。

いずれにしても、ビザの問題で困ったときには、やはり入管法に関する正しい知識をもった、信頼できる弁護士なり、アドバイザーなりに相談するのが一番なのかも、と心から思いました。なによりも内務省の手紙がいつも正しいとは限らず、間違いがあった場合にも私なんぞの素人には、それを見抜ける術はないのですから。

ふと思ったのですが、おそらく日本に住む外国人もこういったビザの問題があり、ときには、こういった法廷に立たなくてはならないことがあるのでしょうか。外国人として生活することは、もちろん他文化に触れられたり、いろいろと刺激的で楽しいこともたくさんありますが、自国にいたときにはまったく考えもしないような面倒臭いこともあるのですよね。

<後日談・追記>
その後、裁判所より法廷の内容の文書が届き、Mちゃんが内務省にパスポート返却のお願いをしたところ、内務省から折り返しの「パスポートは返却できない。レジデンスカードの申請をし直すように」と電話がかかってきたそうです。「カード」はなくても滞在できる、という法廷での内容と食い違う電話に、ますます混乱。ますます「カード」と「滞在許可証」はイコールなのかどうか、悩んでしまいます。


--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited










25.9.14

ロンドン・アート・ブック・フェア

明日からホワイト・チャペル・ギャラリーで開催される「ロンドン・アート・ブック・フェア」に、友人のアーティスト、Kaho Kojimaさんが参加していると聞いて、プレビュー・イブニングにお邪魔してきました。

プレビュー・イブニングなのに、汗だらだらになってしまうほどの大盛況。
人にぶつからずに歩けないほどの人気ぶりです。

1階は出版社のブースがひしめき、Kahoさんを含む個人のアーティストの作品は、2階部分で展示、販売されています。

こちらがKahoさんのテーブル。

クラフト心をそそる美しくて、かわいい作品がいっぱいです。

きれいに布張りされたハンドメイドの飛び出す絵本、トレーシングペパーを重ねていくと、背景が変わっていく絵本など、仕掛けが楽しい希少本ばかりです。

本を開くとこのように。

エンボスされた真っ白な飛び出す絵本が、特に私のお気に入り。

もう在庫がないので、売り物ではない、とのことでしたが、このキッチンの本もすてき。

上の写真の手前にある単語帳のような横長の本は、なんとパラパラまんがなのです。
(パラパラまんがは、こちらのFacebookからどうぞ)

プレビュー・イブニングの今日は、詩人でミュージシャンでもあるアーティストの方のライブもあり。

コードに合わせた「Be Natural, Be Flat, Be Sharp♪」という歌詞が印象的でした。

ロンドン・アート・ブック・フェアは、今週末9月28日までの開催です。
週末、どこに行こうかなぁと考えている、アート好きな方にはおすすめのイベントです。

ロンドン・アート・ブック・フェアのウェブサイト
http://www.whitechapelgallery.org/book-fair/the-london-art-book-fair

Kaho Kojimaさんのウェブサイト
http://kahokojima.com



--------
Facebookのページを開設しました。お仕事の情報とロンドンの小さなネタを地味にアップしています。よろしかったらのぞいてみてください。
http://www.facebook.com/kresseuropelimited

12.8.14

アイルランドの妖精の輪。

アイルランドでサイクリングをしたときの休憩タイム。この紅茶がおいしかった。

日本にいた若い時分に、居酒屋さんなどで、数人でおつまみをつつき合う機会に、最後のほんのちょっとに誰も手をつけず、それを「関東一口残し」などと笑ったことがあります。なんとなく、自分がお皿を終わらせてしまうのは悪い、みたいに皆思っていたのでしょうか。いまでは、すっかり厚かましくなって「食べちゃっていい?」または「食べちゃって、食べちゃって」とお皿を片づける派になってしまいましたけれども。

最後の一口を遠慮する、というのとはまったく違うのですが、紅茶を飲むときに最後の一口を必ず残すのが、うちの夫です。おかげで、いつも彼のカップには、底から5ミリほどの位置に汚らしい茶渋が残ってしまい、迷惑なこと、この上ないのですが、どれだけ「最後まで飲め」と言っても、幼い頃から培われてきた習慣というのは、早々簡単になおるものでもなく、気がつくとカップの底にちょっとだけ紅茶が残っているのです。

どうやら、「紅茶の最後の一口は、妖精のために残す」というのは、アイルランド人の義母から夫に伝わった習慣のようです。そういえば、アイルランドは「妖精の住む国」。とても妖精が住んでいるとは思えないロンドンで、それがどのくらい有効なのか、かなり疑問ですが、母から子に伝わったこういった実用性のない習慣が、ひとつくらいあっても、まぁいいか、とも思うのです。

カップには、「天使の輪」ならぬ、茶色い「妖精の輪」がしっかり残って、消えないにしても。

確かに妖精が住んでいても不思議ではない風景ではあります。

アイルランドのお話は、こちらからもどうぞ。


18.6.14

CREA 7月号

草間彌生さんの作品が表紙です。

いま、発売中の「CREA 7月号」のアート特集の一部、「ティム・バートンの世界を知る4つのキーワード」という記事を執筆させていただきました。よろしかったらぜひお手に取ってみてください。

アートが身近に感じられる、すてきな1冊です。草間彌生さんの魅力もたっぷり。草間さんといえば、一昨年テイト・モダンで大展覧会が開催されたこともあり、また大手デパートのセルフリッジズが、草間さんとヴィトンのコラボ商品の発売を記念したショーウィンドウを展開したこともあり、ロンドンの一般の人々の間でも知られる存在となったように思います。

セルフリッジズの正面エントランスの頭上にも。

20以上のウィンドウが一斉にこのように。

さて、ティム・バートン監督のアート作品に関する記事を執筆させていただくにあたり、8月3日までプラハで開催中の「The World of Tim Burton」を見学させていただきました。

美術館の前には、大きなB-Boyの人形が。

ティム・バートン監督の内面世界がググッと迫ってくる、見応えたっぷりの展覧会。オープニングでプラハにいらしていた監督とキュレーターのジェニーさんにインタビューさせていただき、さらにもう一歩「ティム・バートンの世界」に足を踏み入れさせていただいた感のある、たいへん興味深く貴重な経験でした。

写真撮影の際には、インタビュー会場のカーテンを使って、「こんなふうに目の前で開けたり閉めたりしてもらえますか?」というフォトグラファーさんからのリクエストに、快く応じてくださった監督。あまりにも勢いよくカーテンをばふばふ開閉したため、眼鏡がぱーんと飛んでしまうハプニングもありました。扉の写真は、そんな監督のサービス精神と、フォトグラファーさんのアイデアのたまもの。ファンの方には、ぜひぜひご覧いただきたいワンショットです。

こちらの展覧会「ティム・バートンの世界」展は、なんと11月に日本にもやってきます。森アーツセンターギャラリーにて11月1日から来年1月4日までの開催。私もぜひ、もう一度足を運んでみたいと思っています。ご興味のある方は、ぜひぜひ、以下のオフィシャルサイトものぞいてみてください。

「ティム・バートンの世界」展・オフィシャルサイト
http://www.tim-burton.jp/




16.6.14

気になる。

つい先月まで、「秋秋秋冬雨秋冬」みたいなお天気が続いていたロンドンですが、ようやく「雨夏夏雨雨夏夏」といったルーティンに変化してきました。

今年も畑仕事をしていますが、冬にキリッと寒くならなかったせいか、ナメクジがあまりに元気で、植えても植えても翌週にはあとかたもなく、まるで夢を見ていたのかしら、と思うくらい、なにもなくなっています。

かぼちゃも、きゅうりも、ズッキーニも、苗を植えた翌日には、小さな茎の残骸が地面から1センチ位残っているだけで、みる影もなし。苗をいかにプロテクトするか、こうなったらこちらも、奴らと知恵比べです。

私がお借りしている畑は、オーガニックの規定があり、化学的なものを使用してはいけない決まりになっています。そこで、卵の殻をまいたり、使用済みのコーヒーかすをまいたり(ナメクジ的にはお腹にくっつくのが嫌みたいです)、不織布でカバーしたり、半分に切ったペットボトルでカバーしたり、考えうる限りのあらゆる手段を駆使しています。それでも、今年はレタスやキャベツや水菜など、葉ものは全滅です。

さて、そんななかで、去年「いっぱいつくろう」と心に決めて、冬にまいたそら豆がようやく収穫期となりました。レジ袋いっぱいの豆をもってきて、テレビから流れるW杯の中継を横目で見つつ、ひとつひとつ豆をふかふかのベッドから取り外す作業は、これ、なんとも平和で幸せです。

レジ袋いっぱいだったはずなのに……これっぽっちに。

やっぱりそら豆って、絵になるなぁと。W杯よりも写真を撮ることに盛り上がり…だって、ちょっと気になる……。

ほらほらほら。

気になる。気になる。

ほらほらほらほら。

気になる。気になる。気になる。

サービスショットのヨコ位置。

いまさらですが、試合の後で交換できるシャツがない(核実験に伴う米欧からの経済制裁の影響で)、という、不遇のイラン選手たち、がんばれ。あと10分。

27.5.14

ブルネルさんのトンネル。


テムズの両岸を水底で結ぶテムズ・トンネル。

先週末、テムズ河の水底を走る「テムズ・トンネル」のウォーキングツアーに参加してきました。テムズ・トンネルは、2010年に開通したロンドン・オーバーグラウンドのイースト・ロンドン線の一部で、普段は普通に電車が走っているトンネルです。

それを5月の終わりのバンクホリデー・ウィークエンドの3日間に限り一般公開、ロンドン交通局がツアーを行ったのです。「トンネルを歩いて、なにが楽しいのか」と思われるかもしれませんが、このチケットがまぁ、飛ぶように売れたようです。発売日の午後にウェブサイトをのぞいたときには、10分おきに催行されているツアーのほとんどが「売り切れ」になっていました。

さて、予約当日。「大きなかばんは持ち込めません」「1キロくらい歩くので、歩きやすい靴を」「三脚の持ち込みは禁止」「出発15分前に必着してください」などなど、チケットと一緒に届いたさまざまな注意書きを読みこんで、テムズ・トンネルの南岸の入口となるロザーハイズ(Rotherhithe)駅に到着しました。

なにやらかわいい壁の前に行列ができています。

10分ごとに催行されるこのツアー、私たちの時間が読み上げられると、20人くらいがぞろぞろと駅の中へ。いつもならオイスターカードをタッチするゲートをそのまま通り過ぎ、受付を済ませたら、ゴム手袋を手にはめるように言われました。

こ、こんな、おしゃれな手袋を…。

ロンドンにお住まいの方は、よくご存知かと思いますが、地下鉄はネズミがわさわさ住んでいて、衛生上、トンネルで働く人も、必ずこの手袋を装着するように決められているのだそうです。

地下のプラットフォームに降りると、我々のグループを先導してくれるガイドのニコラさんから、火災の際の避難方法、線路には今日は電気は走っていないけれど、上を歩かないように、などと、意外にも(失礼)ちゃんとした事前注意がありました。

トンネル・ツアーのはじまりはじまり〜。

そして、ところどころで立ち止まって、トンネルの歴史についての興味深いお話が……。

世界初の川底トンネル、ブルネル・テムズ・トンネルとも呼ばれるこのトンネルの工事には、英国の伝説的技術者、イザムバード・キングダム・ブルネルの父マークがチーフ・エンジニアとして、またブルネル本人もアシスタント・エンジニアとして、携わったのだそうです。

1825年に着工、その後、資金を募るためにここで世界で初めての水底晩餐会が行われたり、工事の最中に2度の洪水事故が起きて、死者を出すことになったり、ブルネル本人もようやく一命を取りとめたほどの重傷を負ったりしながら(ブルネル本人は1828年のこの事故をきっかけに工事から離れたそうです)、1843年にようやく開通しました。

テムズ河にかかる橋の渋滞を緩和するための策として、開通したトンネルではありますが、基本的には歩行者のみ、初日には5万人が訪れたほどの人気ぶりで、それぞれのアーチ部分にはお土産物屋が並んでいたそうです。

このアーチのそれぞれにショップがあったのですね。

トンネルの長さは、わずか396メートルとのことですが、1800年代の前半に水底にトンネルを造ることを思いつき、それを実行に移すとは、狂人と天才は紙一重を地でいく人物だったのではないでしょうか。

ツアーは、和気あいあいと、黒いビニールで包まれた赤信号の前で写真を撮ったり、どこまでも続くトンネルのどこまでも似たような写真を何枚も撮ったりしながら、わずか30〜40分ほどのものでした。

ワッピング側から見たトンネル。

ツアーといっても、一本道のトンネルを向こう岸のワッピング駅まで行って、反対側の線路で引き返してくる、というだけの「世界初の水底トンネル」ウォーク、似たような写真をなにが嬉しいのか何枚も撮りながら、和気あいあいと歩きました。ところどころ、往年のレンガがそのまま見られる場所などもあって、皆が一斉にレンガの写真を撮ったり…(笑)。

ツアーの最後には、再びロザーハイズの駅で手袋をはずし、消毒ジェルで手をすり合わせ、駅をあとにしました。

さて、このロザーハイズの駅からテムズ河に向かって数十秒のところに、このトンネル工事の基地の跡地「ブルネル・ミュージアム」があります。

ブルネル・ミュージアム。かわいらしい外観です。

なかには、トンネル工事の流れを説明するパネルなどが展示されているほか、ビデオの上映、オリジナルグッズの販売などをしています。

このブルネル・ミュージアムの前にあるちょっとした公園のベンチがすてきでした。

橋のかたちをしたベンチ。

鉄道橋を模したベンチ。

近づいてみるとそれぞれに顔がついています。

なかなかおもしろいバンクホリデーの週末となりました。